昭和ラブホに関心を抱いたきっかけは、『日本昭和ラブホテル大全』だ。
全国の昭和ラブホの写真と解説が載った、ムック本だ。
その中で、「すごく気になるけど遠くて行けない」と、毎回悩ませるページがあった。
『アイネ五條』と『アイネ香芝』だ。
どちらも内装に特徴がある。
首都圏には、これらに相当する面白い客室のラブホは残っていない。
『アイネ五條』は、カラフルなイラストや凝った照明器具を用いた部屋が特徴だ。
『アイネ香芝』は、主に和室を中心とした、斬新な部屋がウリとなっている。
それらのページを見るたびに、「この空間に身を置きたい」という思いが湧いた。
しかし同時に、アクセスの悪さが「行くのは無理かな」と諦めさせていた。
関東民にとって、関西地方である奈良県は遥か遠くだ。
それでも観光地のある奈良市は京都経由で簡単に行けるが、五條市や香芝市にはどう行けばいいか分からない。
特に、五條市は奈良県の南側なので、地元民以外行けない奥地のように見える。
悩みながらGoogleマップとにらめっこしていると、あるルートが浮かんできた。
なんばから、南海高野線で和歌山県の橋本まで行く→JR和歌山線で隅田(すだ)まで行き、アイネ五條へ→JR和歌山線で志都美(しずみ)駅まで行き、アイネ香芝へ→JR和歌山線と大和路線を乗り継いで、大阪に戻る
そうだ、大阪府と和歌山県を経由すれば、2軒とも一気にアクセスできる。
京都経由だと遥か南側に見える五條市も、南海高野線の力を借りれば遠くない。
そう気づいて、計画を練った。
南海は、関西の大手私鉄のひとつだ。
本線が和歌山市へ向かうのに対し、高野線は高野山へ向かう。
本数はそれなりにある。
大阪の市街地から、南下するに従い自然が増えていく。
橋本で降りると、高野山の山並みが見える。
ここから、和歌山線に乗り換える。
JR和歌山線は、奈良県の王寺と和歌山県の和歌山を結ぶ路線だ。
本数は、一時間に1、2本しかない。
時刻表を見ておく必要がある。
沿線には田園や果樹園が広がる。
山並みが大阪方面を隔てる。
こんなのどかな地域に、奇抜なラブホがあるのはギャップ萌えといえる。
『アイネ五條』の最寄り駅は、和歌山寄りにある隅田だ。無人駅で、周囲には農村が広がる。
『アイネ香芝』の最寄り駅は、王寺寄りにある志都美だ。駅の近くには、飲食店やホームセンターなどが並ぶ。
王寺は、ビルに囲まれた大きな駅だ。
大和路線に乗り換え、大阪方面に向かう。
自然が多い地域から、町工場などの多い地域へと入っていく。
あべのハルカスが見えてきたら、大阪市内だ。
和歌山県と奈良県を経て、大きく一周してきたのを実感した。
昭和ラブホに行くのが目的で、1府2県を移動した。
『アイネ五條』と『アイネ香芝』は、どちらも本で読んだ以上に素晴らしい内装だった。
大移動の価値が充分にあったといえる。
また、ルートを工夫することで、アクセスの悪い所へも行けることを体感できた。
他にも、「行ってみたいがアクセスが難点」というラブホが全国にあるので、工夫して訪れたい。
2024年9月探訪