3が日、山手線の某駅前。
駅ビル前で待つその女性に声をかけた。
「お久しぶりです!」
彼女は笑みを浮かべ、「お久しぶりです〜」と返事する。
早速、改札に入る。
彼女は、私と同じくラブホにひとりでよく行く。
4年前にSNSで知り合ってから、時折会う仲だ。
普段はLINEで、「ひとりでラブホへ行ってきた」「ここのラブホ街はすごかった」と報告しあう。
山手線に乗り、鶯谷を目指す。
西日暮里に近付くと、私は口を開いた。
「西日暮里の『パピオン』っていうホテル、すごいんですよ。自動車形のベッドがあったり、グランドピアノの部屋があったり」
彼女は吹き出す。
「グランドピアノ?何でだろうね」
列車がホームに入ると、『Papion』の青い看板が見えてきた。「あれです」と指差す。
彼女は窓に顔を近付け、眺める。
「見た目は普通なんだね。そんな部屋があるようには見えない」
列車は鶯谷に停車する。
ホームに降り立つと、彼女は圧倒された。
「うわ、すごい!」
ホテルがびっしりと並んでいたからだ。
彼女は、スマホのカメラを起動させる。
シャッター音を何度も鳴らす。
北口の改札を抜けて、街を歩く。
地図を見なくても、気づけばホテル街に入っていた。
「やっぱりすごいな……」
私達は、犇めくホテル達に感嘆の声を発する。
あてもなく歩き、角を曲がる。
ホテルの入口付近に、白とピンクの玉をたくさん付けた飾りが、垂れ下がっている。
正月らしい飾りだ。
「季節感あるね」
彼女はそう言って、シャッターを切った。
大きな部屋の写真を掲げたホテルに、目が行く。
多色使いのタイルを貼った客室らしい。
「目がチカチカしそうだね」
彼女がそう言ったので、私は吹き出した。
「まあ、楽しげですけどね」
あるラブホの前で、彼女は立ち止まった。
「ここ、たぶん行ったことある」
関心を抱いた私は、間髪入れずに質問する。
「どんな部屋でした?」
彼女は少し考えて、答える。
「至って普通の部屋だったね」
私は少し落胆して、返事した。
「なんだ……変わった内装の部屋が好きなもので、期待しちゃいました」
「そうなんだ。私はシンプルな部屋が好き」
線路に沿って、日暮里側まで歩く。
彼女は、「ここは高い」「ここはまあまあ安いかな」と、休憩の値段を検討する。
「ラブホに泊まったことはありますか?」
彼女は私の質問に答えた。
「ないね。地元のしか行かないから」
私は頷きつつ話す。
「地元だと宿泊しませんよね。私も今まで1回しか泊まったことがないです」
「え、泊まったことあるんだ」
関心を見せる彼女に、『ローズリップス心斎橋』に宿泊した話をする。
「そうなんだ。旅行先でラブホは考えたことないな」
ラブホ談義に花を咲かせつつ、鶯谷の隅から隅まで歩いた。
何度か来たことがあるラブホ街を、友達とふたりで歩いた。
ひとりの時とはまた違う視点で見ることができ、新鮮だった。
今後も、彼女と散策するのが楽しみだ。
2023年1月散歩
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