回転ベッドは、昭和のラブホを象徴するアイテムだ。

令和になりその数は減っているが、まだまだ現役のものもある。

今回は、回転だけでなく上下運動も可能なベッド(UFOベッド)の客室を訪れた。

JR東海道線の沼津から、タクシーで約20分。
沼津インターチェンジを抜け、山の方へ登っていくと、ホテル街に入る。

『AI』は2020年まで『大宮アイネ』という名前だった。

白とミントグリーンの、モーテルだ。

車用の通路を、ひとり歩いていく。

奥から2番目の、711号室。

UFOベッドの客室は、空室だった。

北風と空いていた嬉しさに震えながら、ドアを開く。

1階は靴を脱ぐスペース、出前用の窓、そして階段が設置されている。
客室は2階だ。
プルルッ、プルルッ
2階から電話の音がした。

スリッパに履き替えて階段を登り、ドアを開ける。

壁にかかった受話器を取る。
「711号室ですね」
「はい、入りました」

電話はフロントからのものだ。
チェックインの確認ができた。
この部屋は、水回りとメインの部屋に分かれている。
ドアを開けて先に現れるのは、水回りだ。

受話器は、洗面所と浴室の間にかかっている。

メインの部屋のドアを開けたとたん、子どものように「すごぉ~い!」と声を漏らした。

高い天井と広い横幅の空間。

色とりどりに装飾された壁と窓。

そして、中央に置かれた巨大な円形のベッド。

全てが、「ホテルの客室」の概念を覆す要素でできている。

むしろ、遊園地の一角に見える。
空間を観察する。

向かって右手の壁には、イラストで彩られた窓がある。

青の同系色で、抽象的な宇宙が描かれる。

奥には、虹色にライトが光るパネルがある。

向かって左手の壁は、丸い小石を敷き詰めたデザインだ。

照明器具は、まるで下半分が布にくるまれているようなデザインだ。

手前側に、電話や操作パネルの台があり、

多種多様な花が生けられている。

パチスロ機もある。

奥には、右手と左右対称にパネルが置かれる。

奥の壁にも、窓がある。

右手の壁にある窓と、同じようで違う絵柄がペイントされている。
天井は複雑怪奇である。

ベッドの上の天井は、半球にくり貫かれたドームを形成する。

ドームの中は、ブラックライトで描かれた光の筋がいくつも交差する。

窓のイラスト同様、銀河を感じる。
ベッドを観察する。

寝るスペースは円形だ。
上掛けは、ピンクの円形だ。ミントグリーンと対をなす色で、華やかさが増す。
白地に繊細な模様のベッドライナーもかかっている。

取り囲むのは、ミントグリーンの部材だ。
アダムスキー型UFOを上から見たような、裾広がりの形状をしている。

縫ってくっつけたのか、いくつもの繋ぎ目がある。

寝るスペースとミントグリーンの部材は、手すりで仕切られている。

ベッドの頭部分には、ミントグリーンで半円の部材が付いている。
外側に反りがある。

枕元のスペースに、ボタンが5つ並ぶ。
「右回り」ボタンを押す。

カチッ
ウイ~ン、ギギギギギ……
ゆっくりと、回転する。

時々、「ガタガタッ」「キュウウ~」という音もする。
押している間のみ動き、離すと止まる。

一周するのに、2分半かかった。
「左回り」ボタンも、同様の音・速度だ。
この動きには、なぜか笑ってしまう。

右側に、照明スイッチにしか見えない四角いボタンがある。
上のボタンを押す。
カチッ
ブイイイイ~ン……

縦に振動しながら、上昇していく。

40秒で最高位に到着し、ボンッと音がする。

視線が窓の中央にあったのが、窓の上部になり、ついには窓を見下ろす高さになる。

窓だけでなく、部屋にあるほとんどのものを高所から臨んでいた。

窓やパネルの上を、ミントグリーンの部材が横切るのが見える。一部は金色で、キラキラ光る。

天井はこれでもかと銀河模様を見せつける。

一瞬にして、違う部屋に来たような錯覚に陥った。

四角いボタンふたつの内の、下のボタンを押す。

シュウウウウ……
空気の抜ける音がして、ベッドが下降する。30秒かかる。

着地はそれなりの衝撃で、ドン!と音がする。
機械なのに不器用な印象が、笑いを誘う。

上昇・下降いずれも、ボタンを押している間のみ作動する。

テレビ、ソファー、テーブルなどのスペースは、ベッドのスペースの3分の1程度しかない。

テレビはくり貫かれたスペースに収まっている。なめらかなカーブがいい。

紅色のソファー、大理石模様のテーブルの横に、冷蔵庫や電子レンジなどのスペースがある。

白い屋根がメルヘンチックだ。

天井はパネル状の蛍光灯が敷き詰められ、自然光のように清々しい。

浴室は洗い場が広い。
隅にガラス張りのミストサウナ室がある。

さらに、洗濯機も設置されている。珍しい。
凝っているのは内装だけではない。

このホテルは、フードメニューが200種類以上もあるのだ。

チョコアイスクレープを頼んでみる。かなりのボリュームで、味もよかった。

気づけば無我夢中で、ベッドを回したり上下させたりしていた。

壁や天井のデザインはどこも凝っていて、何時間もじっと眺めることができる。

『AI』のUFOベッドの部屋は、訪れた者に笑顔をもたらす異空間だった。

2021年12月探訪

公式サイト:
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