JR巣鴨駅付近にあるラブホ『シャトーすがも』。
303号室には、こんなものがある。
回転ベッドだ。
私は10代の頃『ラブホテル進化論』でその存在を知り、並々ならぬ憧れを抱いた。
「いつか回転ベッドに乗って、回りたい……!」
その後、風営法の規制等により、数が減っていることが分かった。
ラブホのポータルサイトでも、それを置いている所は見つけられない。
いつしか、回転ベッドとの出会いを諦めていた。
ところが近年、転機が訪れた。
深夜番組『霜降りバラエティ』で、このホテルの回転ベッドが登場したと知ったのだ。
検索すると、霜降り明星の二人が円形のベッドに入っている写真や、「回るのを利用して、大喜利をやった」という詳細情報を発見した。
まさか、現役の回転ベッドが東京にあるとは。
「何としてでも行かなくては」と決意し、やって来た。
まず目に付くのは、側面を囲む深紅のベルベットらしき布。
その上の、ピンク色を基調とした花柄の丸いかけ布団。
どことなく、暖かみがある。
ベッドの縁には鏡が5枚並んでいて、その下に枕が置かれている。
枕の近くには、操作のためのパネルがある。
その中に、『回転ベッドスイッチ』と書かれたつまみを見つける。
前後にひねったが、何も起きない。
故障かと疑いつつ、左右にひねった。
ブオン!ガタンッ、ギギギギギ……
「あっ!」
重厚な音を響かせながら、ベッドが回り出す。
内側にあるモーターの振動が、座った私の足に伝わる。
目に映る景色が、ゆっくりゆっくりと変わってゆく。
「やった……やった!やったあ!回った!回ったあ!」
これこそが、10年も前から憧れていた、回転ベッドなのだ。
内側から湧き出る喜びで、叫ぶ。
私はガッツポーズして、子供のようにはしゃいだ。
他にもいくつかスイッチがあるので、ひねってみる。
カチッ
一瞬にして、天井がドーナツ型のカラフルな光を放ち始めた。
赤・青・黄色からなる抽象的な絵が輝く。
カチッ
ひねるや否や、絵の外側を囲むネオン管が点滅し始めた。
赤・橙・緑・青の四色の光が、速いサイクルで付いたり消えたりする。
今度は横になって回る。
色鮮やかな天井の芸術作品が、目の前を通り過ぎてゆく。
壁に目を向けると、
スケスケの浴室や
鏡貼りの窓、
バラの形をした照明器具がある。
昭和ラブホらしい艶やかさに、息を呑む。
かと思えば、薄型テレビや今風の幾何学模様の壁紙、ラメがきらめく壁も見える。
適度に新しいものを取り入れていることが分かる。
「いつか回転ベッドに乗って、回りたい……!」
一度は諦めた夢を、巣鴨のホテルが叶えてくれた。
令和も、『シャトーすがも』のような昭和ラブホが愛されることを、願ってやまない。
2020年1月探訪
※2021年閉業
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