『富貴』の中華風の部屋でくつろいでから、フロントで料金を払った。
館内を歩くと、廊下も平凡ではないことに気づく。
まず目に入るのは、きらびやかなシャンデリアだ。
天井の、窪んだ赤いスペースからぶらさがっている。
光を反射する部分は、透明な球体が連なる。
根元の電気が通る部分は、経年によって茶色く染まっている。
その色はまるで、グラスに注がれたウイスキーのように芳醇だ。
窪んだ空間の周りは、花の飾りで縁取られている。
壁に付いたランプは袋状で、ふっくらと丸い。
ランプを支える部分は黄土色で、植物のように曲線を描く。
壁の低い位置には、黒地に白い模様の板が貼ってある。
何と言っても注目すべきは、美女の肖像画である。
結わえた長い黒髪は濃い緑色の布で束ねられ、オレンジに近いピンクの服を着ている。胸元にはエメラルドと思わしきペンダントをぶら下げ、茶系のイヤリングを付けている。
眉毛はつり上がり、睫毛はふさふさと長く、黒目が大きい。
鼻は細長く、唇はオレンジ色で幼さが残る。
東南アジアやインド辺りの系統と思われる。
廊下の床の一部は、円形にくり貫かれ、花がたくさん飾られている。
目立たない所にあるのが、もったいなく感じる。
階段も他では見たことがない雰囲気だ。
壁には縦に長い五角形の革が貼られている。
赤色と緑色が交互に並び、やや膨らんで見える。
細い鏡が、飾りを縦に結ぶ。
螺旋状に曲がった階段の内側に、茶色の細長い装飾が垂れ下がる。
玄関は、さっと通り過ぎるにはもったいないほどの凝りようだ。
照明は透明な部品の集まりでできていて、黄金色の光を放つ。
壁にはヤシの木と海辺がモチーフのタイルアートが施されている。
壁の一部には、革でできた五角形の飾り物が張り付けられ、前衛的だ。
他にも、金色に輝く天使とも女神とも付かない立体的な彫刻もあった。
外に出た。振り向いて観察する。
ネオンは、楷書の『富貴』が趣深い。
窓にはまった格子は長方形が連なり、複雑だ。
横に飛び出した看板もある。
『富貴』の重厚な書体と、『Hotel』の流れる筆記体。
同じネオンなのに、雰囲気が異なる。
立て看板は二種類ある。
手前の四角い看板は、ホテル名以外の情報は小さく控えめだ。
奥のシールド形看板は、値段が大きめの字で書かれ、ひとり利用可能であることも明記している。
出入口を囲む壁には、「お一人様でも気軽にご利用下さいませ。」と書かれたポスターが貼られていた。
その隣りには、コスプレ撮影での利用を勧めるものもある。
「私がコスプレイヤーだったら、廊下の肖像画の美女になりたいな」
そう思いながら、京橋駅へ戻った。
2019年11月探訪
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