休日の早朝、渋谷にやってきた。
ゴミだらけで雑然とした道玄坂を上り、カラスがうろつくホテル街を歩いていく。
下り坂の一角にある、『グリーンヒル』に入る。このホテルは、半分ほどの部屋が和室となっている。
空室のパネルを見ると、残り2部屋しかない。幸いにして、ひとつは和室だ。
パネルのボタンを押して、精算を済ませ鍵を受け取った。
木目調の引き戸を開ける。
一気に、落ち着く部屋が現れる。
部屋の床は畳が敷き詰められている。
緑色が、目に優しい。
部屋の片隅には、四角いちゃぶ台が置かれている。
青い和柄の座布団が、向かい合って敷かれている。
畳に足を着いて座れる。
部屋の一角に、テレビや冷蔵庫、レンジなどが収納されている。
天井付近を見ると、曲線的な装飾があるのが分かる。
反対側の壁にも、曲線的な板が張られている。
壁に並行した曲線部もあれば、垂直になった曲線部もある。
ベッドは、畳との距離が近い。
縁に座ると、畳を存分に足で感じられる。
横たわると、木の板張りの天井が目に入ってくる。
吊された球体の照明器具は、和紙に桜柄の透かしが入っている。
壁の近くの曲線的な装飾も見えて、柔らかな雰囲気だ。
ルームウェアである浴衣を着て布団に入り、この雰囲気を味わう。
とてもリラックスできる。
食器が置かれた棚の中に、見たことがない案内があった。
「お抹茶ご利用の際はフロント9番へ」
さらにインフォメーションを見ると、抹茶の点て方が書かれたページを見つけた。
これは、やってみるしかない。
軽食のついでに、お抹茶セットを頼んだ。
茶筅、抹茶の粉とさじ、茶巾、そして小さなお菓子が運ばれてきた。
インフォメーションを見ながら、お手前を進めてみる。
茶筅を茶碗の中でよくかきまぜたものの、なかなか泡が立たない。
自己流では難しいのが分かった。
それでも、茶筅をかきまぜたり、お抹茶の香りを味わったりすることで、安らぎを得ることができた。
今回は、渋谷にあるとは思えないほど落ち着いた、畳とちゃぶ台の部屋を訪れた。
ごたごたした街で、ほっと一息できる貴重な空間だ。
2025年3月探訪