山梨県の石和温泉は、東京から近い人気の温泉地だ。
このエリアには、コテージ式の昭和レトロなホテル『御坂城』がある。
駅からは、富士山駅方面のバスに約30分乗り、御坂ゴルフ場入口で下車するルートがある。
私はバスルートではなく、笛吹市内のビジネスホテルから徒歩で向かった。
フルーツ農園が続く笛吹ラインを約1時間半、富士五湖方面にひたすら歩く。
上り坂がきつくなり、ゴルフ場のゲートが見えてきたら、ホテルはすぐだ。
ゴルフ場のゲートの先に待つホテルのゲートを潜る。
傾斜の付いたホテルの敷地を歩く。
瓦屋根の戸建てが、円を描くように並ぶ。
空室は所々に見られるものの、部屋の写真がない。どこに入ろうか。
敷地内をうろうろしていると、スタッフの男性がフロントらしき建物からやって来た。
「和室は空いてますか?」と聞くと、すぐに該当する戸建てを教えてくれた。
一軒家のようなドアを開けると、畳敷きの空間が広がる。
奥に目をやると、ベッドが置かれた空間が続いている。
ベッド空間の入口では、紺のレースカーテンが畳まれて掛かっている。
カーテンは、違う世界をつなぐ門のようだ。
畳の空間を観察する。
背の低い木のテーブルは、2色の茶色が使われた珍しいデザインだ。
座椅子と座布団が、テーブルの前に並ぶ。
リラックスできる空間だ。
窓を開けると、他の戸建てと山並み、それに沿って建つ家々が見える。
このホテルの屋根を覆う瓦はオレンジ系で、西洋の雰囲気なのが分かる。
遠くの家々は山の裾まで広がり、甲府盆地の形が何となくつかめる。
ベッド空間に足を踏み入れる。
くつろいだ気持ちが、わくわく感に変わる。
ベッドを覆うブランケットは、赤や黄色の模様で、裾にドレープが付いている。
ベッドフレームには、紫のベロアが貼られている。
ベロアの模様が、高級感を生み出している。
ベッドヘッドには、3つの扇形の鏡が付く。
ベッドの頭上の壁には、世界貿易センタービルがあった頃のニューヨークの写真が貼られている。
コンセプトがよく分からない。
昭和ラブホではよくある現象だ。
紫のベッドに横たわると、紺のレースカーテンと素朴な和室の空間が目に入る。
艶やかなベッド空間側から見ても、異空間がくっついているような錯覚に陥る。
和室空間に戻り、畳まれたカーテンを広げて閉めてみる。
すると、部屋の空気が変わった。
絶妙な透け感と柔らかな明かりが、ベッドを強調する。
古い映画のラブシーンで登場しそうな光景だ。
ベッド側から見ても、和室が妙に色気漂う空間に見える。
また、ベッド横にも同じカーテンが掛かっている。
開けると、ベッドを映す鏡が現れる。
カーテンひとつで、大きく変身を遂げることが分かった。
今回は、雰囲気の異なる和室空間とベッド空間が結合し、カーテンで趣を変えられる部屋を訪れた。
2025年2月探訪