大阪でひたすら、ラブホを巡って写真に収める。そんな旅行をしたことがある。
撮影したラブホの数は、60軒。
東京にはない斬新なデザインのラブホや、奇抜な名前のラブホを紹介する。
・厳かな町に佇む、ギリシャ風宮殿『LOVE』
地下鉄の谷町九丁目の一角は、生國魂神社やいくつもの寺院がある。
粛々とした雰囲気の町を歩いていると、こんなラブホに出くわした。
凝った装飾が施された柱、ホタテ貝のような彫刻。
金色に近い黄色が所々に使われ、壁の白さを強調している。
入口のある壁面には、松明を掲げた女神の彫刻が4体も張り付いている。
古代ギリシャの神殿のようだ。
そんな建物なのに、屋上にはSFチックな銀色の球体が乗っている。
「LOVE」とピンク色で書かれたネオンが、どことなく近未来的だ。
下から上まで、一度見たら忘れられない外装だった。
・ハルカス近くの、ニセ大阪城『醍醐』
JR天王寺駅は、あべのハルカスの最寄り駅である。
駅の近くにはホテル街があり、一番目立つのは『醍醐』だ。
遠くからもよく見えるハリボテ感満載の大阪城には、笑うしかない。
屋上にはそれ以外に、「醍醐」の年季が入ったネオン看板が乗っている。
近づいても面白い。
壁面全体に、謎の家紋がたくさんくっついている。
建物全体を囲むように、松が植えてある。
「城」のコンセプトが感じられる。
しかし、入口付近を見て何を伝えたいのかがよく分からなくなった。
二宮金次郎の像が立ち、「報徳訓」という道徳的な教えが書かれた石碑が置かれていたのだ。
「年々歳々報徳を忘れるべからず」
ラブホの前でそんなことを言われても、説得力に欠ける。
一生懸命写真を撮っていると、年配の男性が声をかけてきた。
「エクスキューズミー。アーユートラベラー?」
私は一瞬きょとんとなってから、返事した。
「東京から来ました」
「な~んだ」
男性は手の平を返したように興味を失い、どこかへ去っていった。
ラブホを撮影していて声をかけられたのは、後にも先にもこの時だけだ。
・謎の生き物が屋上に乗る『リトルチャペルココナッツ』
『醍醐』と同じエリアに存在する。
カメレオンと怪鳥と怪獣を足して三で割った生き物が、屋上に乗っかっている。
目立つため、はるか上のあべのハルカスの展望台からも、見つけられる。
壁には草が絡み付き、南国の鳥があちこちに止まっている。
・滝と遺跡がモチーフ『アトランティス』
地下鉄谷町九丁目駅の近くにある。
建物全面が、茶色い石造りの模様を描く。
中央に、巨大な滝が流れる。
まるでこの建物だけ、テーマパークから持ってきたようだ。
・サンタだらけ『リトルチャペルクリスマス』
地下鉄日本橋駅の近くにある。
季節がクリスマスであろうとそうでなかろうと、サンタクロースがあちこちにいる。
プレゼントの袋を持ったサンタ、
望遠鏡を覗くサンタ、
「どうぞどうぞ」とでも言いそうなサンタ。
3人とも、表情に何となく癖がある。
・69(シックスナイン)
地下鉄日本橋駅の近くにある。
屋上看板は、読みやすい太ゴシック体のネオン。
サビの付き方からして、相当古く見える。
とにかく、これ以上ないほど直接的な店名である。
・かばの王子さま
地下鉄谷町九丁目駅の近くにある。
大阪には『やんちゃな子猫』『おひるねラッコ』『ももいろのきりん』『おとぼけビーバー』『あひるのともだち』等、動物が名前に入ったラブホが多く存在する。
カバはどうキャラクター化しても格好良くならない気がする。「王子さま」とのちぐはぐ感が面白い。
・べんきょう部屋
地下鉄谷町九丁目駅の近くにある。
「一体何を勉強するの?」と突っ込まざるを得ない。
本を広げるテディベアのカップルや、
本を読む男女のシルエットが所々に描かれている。
ほっこりするイラストだ。
一方で、広告はギラギラしている。
「当店は、サービス料は一切頂きません!」
「さぁ~魅惑の”べんきょう部屋ワールド”を120%ご堪能下さい!!」
様々なものが無料と書いてあった。
採算は取れているのだろうか。
・こっちむいてあかずきんちゃん
地下鉄日本橋駅の近くにある。
80年代を思わせる丸文字と、赤い頭巾をかぶった少女の横顔が愛らしい。
「City inn」の軽やかさ、「立体ビデオ」の妙なカラフル感も印象的だ。
・なんでやねん
心斎橋のホテル街にある。
漫才で必ず登場するフレーズが、まさかラブホの名前になるとは。
壁にびっしり貼られた看板を読む。
「道頓堀でイカしたホテルNO.1に選ばれました!」
「無料サービスにロマンの嵐!」
「ホンマかいな!!」
「よろしゅう頼むわ!!」
下手な漫才よりハイテンションである。
大阪は「おもろい」ものが至高とされる。
しかし、ラブホに関しても、「おもろい」ものがウケるのは、訪れるまで知らなかった。
また大阪に行きたい。
2019年11月散歩
↓大阪のラブホ『富貴』についてはこちら