三重県の松阪市は、日本有数のブランド牛・松阪牛で有名だ。
市街地には、貴重な昭和のモーテル『スターホテル』がある。
東京からは、新幹線で名古屋まで行き、近鉄名古屋線と山田線を乗り継いで松ヶ崎駅まで行く。
松ヶ崎駅からは、国道166号線を北に向かって約15分歩く。
鮮やかなピンクのロゴが描かれた看板が見えてくる。
建物の側面には、「Live like the STAR」というキャッチコピーが描かれている。
一階には、ライオンに乗った女神のレリーフがある。
部屋ひとつひとつには、「トワイライト」「ギャラクシー」など、メルヘンな名前が付く。
その中で、気になる部屋「ダブルファンタジー」を発見した。
ガレージのシャッターを閉めて、階段を登る。
客室のドアを開けると、女神のレリーフが私を迎える。
見上げるような高さから、羽を広げて威圧的な視線を向けてくる。
斬新な演出にびっくりして正面を見ると、さらに驚きの光景が広がっていた。
回転ベッドが、2台佇んでいる。
1台あるだけでも貴重なものが、広い空間に2台もある。
メインの空間よりも手前に、水回りがある。
トイレは白い円筒形で仕切られた中にあり、洗面所は申し訳程度の空間に設けられている。
トイレのドアノブや洗面所の鏡は、繊細なレースのような装飾が施されている。
部屋のほとんどは、ベッド空間と浴室が占めている。
浴室とベッド空間の間のわずかな部分に、ソファとテーブルが置かれている。
ソファは扇形で、ボタニカル柄だ。
回転ベッドを囲む壁には、部屋の名前である「Double Fantasy」の文字が彫られている。
白い板張りの大きな窓が、文字の左右に備えられている。
回転ベッドのフレームは2台とも、ソファと同じボタニカル柄だ。
側面はキルト状になっていて、柔らかそうな見た目をしている。
扇形の台と、金色の柱が、2台を仕切る。
小さな空間さえも、抜かりなく飾られている。
「2名以下の場合は、1台だけを使用してください」と注意書きがあったので、右側の回転ベッドのみを使用した。
右側のベッドには、薄いピンク色の羽毛布団が掛かっている。
壁には、黒い鏡が貼られている。
ベッドヘッドには、「コントロールプレート」と書かれたスイッチが並ぶ。
右を押してみる。
カチッ、カタカタ……カタカタ……
あまり大きな音も振動もなく、ベッドが回る。
保存状態がとてもいいのが分かる。
動きが滑らかなので、気付くと何周も回っていた。
天井の景色は、ベッドに合わせてどんどん変わっていく。
天井の大部分は、黒い鏡で埋まっている。
しかし角度によっては、シャンデリアがよく見えたり、白い梁の太さが目立ったりする。
ベッドだけでなく、そこから見える天井にもこだわりが感じられる。
この部屋は、ベッド空間だけでなく浴室も広い。
広い空間に、浴槽が2据え設置されている。
手前の浴槽は、大きな円形のものだ。
たまに見かけるデザインといえる。
一方で奥の浴槽は、透明な素材を半球状にしたものだ。
これは昭和の頃に流行った、「サラダボウルバス」という浴槽だ。
非常に貴重な遺産といえる。
試しに栓をして蛇口を捻ると、きちんと湯を張ることができた。
入浴剤を入れると、巨大なカクテルグラスのようで楽しそうだ。
浴室には窓があり、ベッド空間を見ることができる。
改めて、ロマン溢れる空間だとしみじみ思った。
今回は、2台の回転ベッドとサラダボウルバスという、昭和ラブホの醍醐味ともいえるアイテムが揃った部屋を訪れた。
40年以上経ったものが、ここまでよい状態で残っていることは、滅多にない。
末永く愛されることを願うばかりだ。
2024年11月探訪