渋谷の『バイブバー The Wildone』は、バイブレーターを始めとする、大人のオモチャがたくさん並んだ、バーだ。
残念なことに、2022年9月を持って閉業してしまった。
※追記:2024年4月に営業再開したとのこと。
忘れないよう、以下でバーの詳細を記す。
友達から、バイブバーについて教えてもらい、関心を抱いた。
ある日の仕事帰り、渋谷駅に降り立った。
109のある通りで、ファストフード店の角を曲がる。
雑居ビル一つ一つを見上げる。『バイブバー』の看板を発見する。
営業中なのを確認し、急な階段を登った。
登り切った先の3階には誰もいない。
ただ、ピタッと締まり切った竹の扉と、ポップな立て看板だけが存在している。
(やってる……よね?)
疑いつつ、インターホンを押した。
ピンポーン
『バイブバー』のインターホンを鳴らす。
「は~い」ガチャッ
竹モチーフのドアが開く。
「いらっしゃいませ」
店員の女性が、出迎えてくれた。
土足厳禁なので、靴を脱ぎ、差し出された袋に入れる。
R&Bらしき音楽が聞こえた。
入口ドアのすぐ近くに、奇妙なオブジェがある。
アーチ状で肌色の、凸凹でひだが連なったオブジェだ。
暗い中でライトアップされている。
なかなかの迫力である。
そこを潜ると、何も言えなくなった。
どこを見ても異様な空間だからだ。
まず右を見ると、そこにはバーカウンターがある。
カウンターの奥にも手前にも、ずら~りとそれが置いてあるのだ。
(バイブ、バイブ、バイブ、バイブ、バイブ、バイブ、バイブ……バイブだらけだあああああ!)
私は脳内で叫びつつ、左を向いた。
すると、またもや言葉を失った。
壁の縄のれんの向こうに、江戸時代の男女の絵が見える。
もしやと思いつつ、縄のれんをまくってみた。
予想通り、そこにあったのは春画だ。
入口寄りに目をやると、更に驚くべきものが存在していた。
トイレだ。
女子トイレの便器の前には、ほぼ全裸の女性像がいる。
男子トイレも負けてはいない。
妙な状況に置かれた男性像が、便器の前に座っている。
カウンター席の椅子も怪しい形をしている。
眩しいほどに真っ赤で、真ん中に溝がある。
カウンターのテーブルには、春画を描いたトランプが散りばめられている。
店内のあちこちで、アダルトでアートなものに触れる。そのたびに、驚きと笑いが溢れた。
椅子に座ると、店員の女性がシステムを説明してくれた。
展示されたバイブは、自由に手で触ったりスイッチを入れることができる。
好みに合いそうであれば、購入も可能だ。
「バイブは繊細なため、こちらのビニール手袋をご着用下さい」
「撮影はOKです。SNSにアップしちゃって下さい」
30分1ドリンクコースと、90分2ドリンクコースがあった。
90分コースにして、料金を支払う。
早速腕まくりして、手袋を付ける。
カウンターの前に並べられたバイブに、目を向けた。
赤、ピンク、紫、黒等と色別に分けられている。
まるでアクセサリーの店のようだ。
まず手にしたバイブは、雪のように白く、らせん状のものだ。
先端を触ってみると、指が沈み込むような柔らかさだ。
低反発クッションに、勝るとも劣らない。
もはや癒しグッズだ。
これを触りながら大福を食べたい。
カウンター席の左脇を見る。
パステルカラーで5色の、枝分かれしたバイブが並んでいる。
メインの振動部はシンプルな円筒形で、大きさは普通だ。
しかし、サブのバイブが凝りに凝っていた。
イルカやリスなど、動物がモチーフなのだ。
スイッチを入れると、動物がブルブル震える。
可愛らしい。
ピンクのコーナーには、人の顔のような形の玩具もある。
頭が大きく、優しそうな顔をしている。
少女のようだ。一定のスピードで回る。
緑のコーナーにも、見たことがないバイブが立っている。
先端部分が、お化けカボチャの形だ。
カボチャの縦の筋、三角の目と口が、リアルだ。
ハロウィン限定だろうか。
前半は、山のような玩具を漁り、触れたり電源を入れたりした。
後半は、店員の女性と会話した。
彼女は、ブロンドのワンレンボブが似合う、クールな雰囲気の女性だ。
バイブひとつひとつの特徴を、分かりやく説明する。
また、「女性おひとりで来られるの、勇気がいりますよね」と気遣ってくれた。
バイブについて話すうちに、驚くべき事実を知った。
彼女は、SMクラブの女王様だったのだ。
男性を虜にするような、興味深い知識を教えてくれた。
詳しくは書けないが、どの知識も目から鱗が落ちる思いだった。
ちなみに、バイブ以外にも面白いグッズを扱っていた。
性器をかたどった飴や、春画モチーフのトランプ、性的な表現が書かれたライターなど。
大人のユーモアを感じる。
あっという間に90分が過ぎた。
BGMが、いつの間にかジャズになっていた。マイルス・デイヴィスの曲だ。
革新的という意味では、この空間にマッチしている。
女性器のオブジェを潜り抜け、靴を履き、店を去った。
「また来ます」と告げて。
なお、その後2度再訪した。
季節に合わせて飾り付けが変わったり、新しいグッズがあったりと、飽きない楽しさだった。
『バイブバー The Wildone』は、大人のオモチャだらけの異空間だった。
強烈な内装、バイブひとつひとつの個性、店員さんとの貴重な会話、アダルトな雑貨、空間に似合うBGM。
全てが小宇宙を構成していた。
ときには、このバーのことを思い出すようにしたい。
2018年1月探訪
(2022年9月閉業、2024年4月営業再開)
公式サイト: