埼玉県の川越から高麗川までを結ぶ、JR川越線。

4両編成の電車が単線を走っていく。
そんなローカル線沿いに、昭和の家屋のような『旅荘山楽』がある。
ラブホという言葉が浸透する前から続く、カップル向けの宿だ。

最寄り駅は、川越から3駅先の笠幡だ。
駅からは徒歩約30分かかる。

秩父方面の山並みを見ながら、川越日高線を歩いていく。

途中で右折し、川越線の踏切を渡り、また別の通りを歩いていく。

狭山茶の産地らしく、茶畑もある。

しばらく道なりに歩くと、『山楽』の看板が見えてくる。
『山楽』の看板の文字は、太楷書だ。

青い1枚のタイプだったり、山と楽を別パーツにしたタイプだったりするが、どれも勢いと趣を感じる。
さらに敷地の角には、創業当時からありそうな看板もある。

「森の中の静かな厶ード」というキャッチコピーが印象的だ。

他にも、「ご商談」と書かれた手書きの板やモノクロの料金表など、今では見かけない佇まいの看板が多くある。

どれも綺麗な状態で残っている。
このホテルだけ、昭和中期とつながっているかのようだ。

敷地に入ると、木造の家屋がいくつか並んでいる。
曲線的に並んでいて、奥行きがある。
部屋の写真はなく、空室か満室かは手書き看板が示している。
公式サイトもないので、どんな内装かは運任せだ。

何となく、最も奥の建物に惹かれた。
赤いトタン屋根に白い板張りだ。
ドアを開けて玄関に上がり、襖を開ける。

こたつが真ん中に置かれた居間が現れた。
年季が入った家に来たような錯覚に陥った。

こたつの天板は白地の花柄、こたつの布団はピンクの花柄だ。
布団の上には黄色の布も掛かっている。
カラフルな色遣いだ。
こたつの天板には、飴や梅干しが入った壺が置かれている。

稼働していない、ピンクの冷蔵庫もある。
今はなきSANYO製だ。

冷蔵庫の上には、茶器やコップの仕舞われた棚も乗っている。
棚の上には、ドライフラワーとプリザーブドフラワーが並んで置かれている。

テレビの前には、ドライフラワーと折り紙の花が置かれている。
もしブラウン管だったら、テレビの上に乗っていたと想像が付く。
居間の右側に、寝室空間がある。

入口がやや狭くなっているのが、秘密の空間のようだ。
居間とは対照的に、白い壁でシンプルだ。

数少ない装飾である、「笑う門には福来たる」というおかめの絵が、愛らしい。
ベッドは低く安定している。
掛け布団は、使い込まれた家の布団を思わせる。

ベッドに寝て見えるのは、白い天井に白い壁、シェードに囲まれた丸い蛍光灯だ。
古い一軒家に寝泊まりしているかのようだ。

ちなみに居間の左側の部屋は、襖で隠されている。

襖の先には、細い和室がある。

座椅子やストーブが置かれた、用途不明の空間だ。
通常、モーテルやコテージのラブホで精算機がない所は、スタッフが料金を徴収に来る。
しかしこのホテルは、スタッフが部屋に来ない。

こたつの天板の料金表を見ると、「受付出来なかった方は上記の金額をテーブルの上において行って下さい」とある。
無人販売所ならぬ、無人ラブホだ。
細かいお金がない時は、万札を1枚置いて一旦外出することをお勧めする。
徒歩5分圏内のコンビニで別の万札を千円札に崩すことで、正確な料金を置いていくことができる。

今回は、昭和中期の一軒家のようなラブホを訪れた。

回転ベッドや鏡張りのラブホよりも、もっと昔の時代を味わうことができる。
純喫茶や老舗遊園地など、ひととおりのレトロを知った人にお勧めの宿といえる。
2026年2月探訪