JR大阪環状線の京橋は、昭和の香りが漂う飲み屋街だ。
駅前のレジャービル『グランシャトー』は、特徴的なCMソングをガンガン流している。
この町を、40年以上見守るラブホが『富貴』だ。
フロントで空いている部屋を尋ねる。
赤と黒の誘導灯に従って進みドアを開くと、こんな空間があった。
ここは「中華」という名前の一室だ。
手前にはちゃぶ台が置かれた部屋、奥にはベッドの部屋がある。
まず手前の部屋で注目すべきは、壁一面に付いた金色の彫刻だ。
龍2頭が剣を挟んで向かい合うモチーフと、
翼の生えた獅子が2頭でにらみ合っているモチーフの2種類がある。
ランプも中国風デザインだ。
壁にくっついたものは赤いフリンジと渦巻き模様が特徴的だ。
天井からぶら下がったものは、繊細なタッチで山の風景や花と鳥のある風景が描かれている。
職人の一点物かもしれない。
ランプ以外に、エキゾチックなシャンデリアも部屋を照らしていた。
金色でリング状の飾りが、赤い天井に不思議な影絵を映し出す。
隅には木製の鏡台がある。
赤茶色がアジアンな雰囲気を醸し出す。
つやつやに磨かれ、まるで買い立ての新品みたいだ。
ちゃぶ台にはお茶セットがあり、ここだけ温泉旅館のようである。
ラブホで急須と湯呑み茶碗を見たのは、初めてだ。
手前と奥の部屋を隔てる壁には、天女を思わせる金色のレリーフがある。
扉の周りを取り囲むように、龍がアーチ状に描かれている。
真っ赤な網の引き戸を開けた先が、ベッドルームだ。
パリッとしたシーツの上に横たわると、あるものが目に入ってきた。
天井の鏡である。
ベッドが置かれた位置のちょうど真上にある。
鏡があるだけでも珍しいのに、それにくっついた照明器具も変わったデザインだ。
電球が百合の形に光り、繋がった全体の形は風車のようである。
これほどに優雅な明かりは見たことがない。
ベッドの頭側には赤い台がある。
台の上の壁には、百合の形の照明があり、ぼんやりと光る。
ベッドの足側の明かりは円筒形で、ガラス細工のようだ。
照明器具は、一つとして平凡なものがない。
ありとあらゆる部分にこだわりが見られる。
それにも関わらず、落ち着きが感じられる。
テレビでローカル番組を観ながら、ウトウトしてしまったくらいだ。
30分で出るつもりが、1時間半近くくつろいでいた。
豪華絢爛な内装なのに、ほっとする『富貴』。
長く愛されている理由が、何となく分かった気がした。
2019年11月探訪
公式サイト:
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