西川口に初めて関心を抱いたのは、群馬への一人旅の道中だった。
(あっ!あのラブホは何だろう?)
高崎線で西川口駅を通過する時に、目を惹く建物があったのだ。
ずっと気になっていたそのホテルに、接近した。
名前を『ZIP’S』という。
茶系の洋瓦に赤いレンガ、白い石の壁材が異国情緒を醸し出している。
壁にはハートとリボンのモチーフの飾りが付いていて、チャーミングである。
車窓から見た時、お菓子の家みたいだと思ったが、間近で見てもクリームやクッキーを思わせる色合いだ。
もし私がパティシエなら、このホテルを模したケーキを作るだろう。
『ZIP’S』は西川口駅の南側にある。
ラブホの数は、駅の北側の方が多い。
白と青が爽やかな『モン・リーヴ』、
紫のアゲハ蝶が昼間からキラキラ光る『H-SEVEN』、
黒にレース柄の飾りがゴスロリを思わせる『グランデ』が線路沿いを彩る。
線路から離れた繁華街では、
建物が長くて細い『マイルド』、
無駄を削ぎ落としたデザインが今風な『UNO』が目に留まった。
そして、繁華街には多数の風俗店がある。
『マツタケヒロシⅡ』は、あの薬屋のフォントとしか思えない。
あるビルの2階には『天然・萌えっち!』という、青空に虹のイラストが掲げられた店があった。ほのぼのしている。
その上の階には『ドスケベワールドS』という、『ド』と『S』が手枷で拘束された真っ赤なロゴの店があった。アグレッシブだ。
同じビルで1階分隔てただけで、世界観が違いすぎである。
極め付きは、こんな店舗型風俗店。
『ド淫乱ンド』というネーミングと赤い文字には、吹き出すしかない。
全体を取り囲むのは、メラメラ燃え盛る炎。
「大人の遊園地」といった、キャッチコピーも熱を放っているように見える。
一番目立つのは、アイマスクをして縄で緊縛され、大人の玩具を持っているテディベアだ。
どれを取っても、卑猥さ満点のデザインである。
西川口は、お菓子の家のように可憐なラブホから猛烈にリビドーを煽る風俗店まで、何でもありの町だった。
2019年5月散歩