とある休日に、渋川伊香保の性をテーマにした博物館2ヶ所を訪れた。
『命と性ミュージアム』と『珍宝館』だ。
先に『命と性ミュージアム』を訪れ出発した私は、坂道をひたすら登っていく。
交差点に、「珍宝館 大人の博物館 パワースポット」と書かれた看板があった。
目指すはそこである。
ある程度歩き、『おもちゃと人形自動車博物館』を通り過ぎる。
バスガイドと運転手が、観光バスの前で話をしていた。
その後もひたすら登り、『珍宝館』の大きな看板を見つけた。
「少子化の ストップ応援 珍宝館」
車道を通る人達に、全力でその存在をアピールしている。
ここでどうしても会いたい人がいるのだ。
チケット(1300円)を買い、その人がいないか、うろうろした。
ふと、若いカップルが誰かと話しているのを見かけた。
「ノラ猫がよく来ちゃうからねえ、どうしようか悩んでるの」
そう話す女性、その人こそが、私の会いたい人だった。
『珍宝館』の館長である。
「かといって、ノラ猫に毒餌やれないしね。
化け猫になって、SEX中に出て来るわよ」
日常話が、突如下ネタトークになった。
「そんなの見たら、まんこから抜けなくなっちゃうわ。
注射かなんかして、引っこ抜かないとね」
カップルも私も、ドッと吹き出した。
ここの名物は、何と言っても館長の説明である。
私、カップル、男性2人、女性2人が集まった。
館長は説明の前に、何の交通手段で来たか、私に尋ねてきた。
「八木原駅から歩いてきました」
「バカだねえ~。渋川駅からバスが出てるのに」
言われて愕然とした。
隣りの駅まで乗れば、汗だくにならずに済んだのだ……!
続いて、男性二人にも同じ質問をした。
「伊香保から歩いてきました」
「バカだねえ~。スマホを使いなさいよ!必要ない時はいじってるのにさ」
更に話が進み、帰りは私と男性二人がタクシーで駅へ向かうことを提案してきた。
言うまでもなく、男性二人は赤の他人である。
戸惑っていると、館長は口を開いた。
「ダメなの?ヤラれちゃうことを心配してるの?」
返事をする前に笑いが込み上げる。
「大丈夫よ。この子達、貴女の花見ただけで3秒でイクから」
私だけでなく、その場の全員が笑っていた。
(この人、アドリブの下ネタも言えるんだ…!)
驚愕していると、館長の説明が始まった。
「私が、珍宝館の館長及び万長の、ちん子と言います」
一斉に「ぷぷっ!」という声がした。
「神の使いでもあります。国家試験通ってます。
知識、実技等、試験は全て100点でした」
笑いを抑えることができない。
「最近、日本の出生率がどんどん下がってます。
あなた達の世代で産む人は、およそ400万人。
そして世代を追うごとに半減していけば、いずれ日本人は0人になります。
私はそれを食い止めたいのです」
急に真剣な話になり、首を縦に振る人もいた。
「私は日本の将来はどーでもいいんです。
私が気になるのは、年金。
今の支給額だと、お米買ってオムツ買ったら、なくなります。
しょうがないんです。もう70過ぎなので」
控えめなクスクス笑いが聞こえた。
「その上、こんな仕事だから、大した給料も入らないし、
スーパーに行くと、近所の人に指を差されます。
特に子供が、私のことを<変態おばさん><エッチおばさん><スケベおばさん>
呼ばわりするんです」
クスクス笑いのボリュームが大きくなった。
「だから、こんな仕事やめたいんです。
でも、今日あなた達がここで学んで、少子化を食い止めれば、
晴れて私はこの仕事を辞めることができます。
珍宝館は、結果にコミットします」
館内は、笑い声で溢れた。
「男性達、彼女を喜ばせてる?
見たところ、短小・包茎・早漏だけど。
貴方達は大人でも、下はたまごクラブ・ひよこクラブ・こっこクラブね」
言われた男性3人は、申し訳なさそうに吹き出していた。
「女性達、腰がふらついてるわね。
欲求不満な欲求不まんこちゃんね。
美味しいちんこ食べてないでしょ?」
私と女性3人は、ゲラゲラ笑った。
「では、クイズです」
ちん子さんは男性器型の指差し棒で、ある絵を示す。
「この絵、人の顔に見えますね。
でもよく見ると、全部女性の裸なの。
全部で何人いると思いますか?」
江戸時代のだまし絵のようだ。
目も鼻も顎も、全て女体でできている。7人くらいだろうか。
「答えは、12人です」
全員びっくりしていた。
「当たった人、いないみたいね。残念だわ。
正解した人には、北朝鮮旅行プレゼントだったのに」
ドッと笑いが起こった。
「今なら将軍様にご挨拶できて、水爆実験の見学付きだったのに」
ブラックな冗談だが、吹き出すしかない。
その後も急に、
「男の子達、今すぐちんこ出しなさい!
私は群馬の豊田真由子って呼ばれてるの。
『このハゲ~!ちんこ出せ~っ!』って」
と謎の命令を出したり、
木製の股ぐらから、木製の男性器を取り出し、ゴン!ゴン!と叩いたり、
頬が痛くなるまで私達を笑わせた。
私達への説明が終わるとすぐ、先程『おもちゃと人形自動車博物館』で見かけたバスガイドと運転手、中高年の観光客が入ってきた。
「皆さんのちんこが弱まっているというので、急遽、ツアーでここに寄ることが決まったそうですね」
トーンの低い笑い声が聞こえる。
私はノーパンの人形を覗いていた。
『珍宝館』はちん子さんの説明だけでなく、展示物もすごい。
どれも興味深かったが、特に面白いと感じたものを、5選紹介する。
新館の一角にあるコーナーだ。
熱海秘宝館ではドレスがめくれるマネキンがあったが、こちらは違う。
等身大パネルや、絵画、立体像が置いてある。
鈴木信一という、彼女をテーマにしたものを制作する芸術家の作品が多い。
「マリリン・モンローを食す」「マリリン・モンローの乳房」という名の絵画があった。
どちらも愛情を超えて狂気しか感じられない。
立体像はまともに美しい。
新館と旧館どちらにもある。
チケットのモチーフになっていることから、珍宝館の目玉なのかもしれない。
江戸時代の、男女がまぐわっている絵が一番多い。
紙を何層にも重ねて奥行きを出した現代風のものもある。
ディズニーキャラでこういった3Dの絵はあるが、まさか春画とは。
より古い、奈良~鎌倉時代と思わしき春画もある。
江戸とは違う、みやびで高貴な雰囲気だ。
更には、足で弓矢を構えた女性と、身長よりも長い男性器を抱えて先に的を付けた男性が、向かい合っている絵もあった。
滑稽画と呼ぶのだろうか。
個人的にとても惹かれたのは、春画柄の着物を着て、かんざしを咥えて身支度をする女性の絵だ。
あどけなさの残る表情と、ファッションに春画を取り入れる挑戦的な精神が、見事に融合している。
これも、新館と旧館にコーナーがある。
地元の川で拾って来たものらしい。
一つ一つはとても小さいが、集まるととてつもない迫力がある。
一体、何年かかったのだろう。
「あなたのに似た石はどれですか?」とあったが、数が多過ぎて見つからなかった。
旧館に設けられたコーナーだ。
木の枝の伸びた形が、腕や脚として表現されている。
頭の部分には顔や髪が描いてあり、光沢剤が塗られている。
それ以外は自然の状態のままのようだ。
一糸まとわぬ姿をさらけ出した人形たち。
たまにくっついている男女もいた。
何というか、自由奔放である。
旧館の一角にある。
スナップ写真のため小さいし、色あせたセピアで見にくい。
それにも関わらず、男女の絡みが生き生きと伝わって来た。
洋装が広まり出した時代だが、圧倒的に和服のカップルが多い。
他にも、
江頭2:50の「七転八勃起」という書画とチン拓、
ちん子さんと一緒に撮れるプリクラ等、思わず足を止めてしまうものがこれでもかとあった。
小学生の男の子と母親が私の横で春画を見ていた。
ここは18禁ではないのだ。
江戸から現代までの性表現を、見て知ることができる。
古いけれども新しい。
春画も木の人形も、その表現の仕方は独創的だ。
性の表現は、無限にあるのだと教えてくれた。
さて、2ヶ所の博物館を回って空腹だった私は、近くの店で郷土料理・おっきりこみを賞味した。
駅へのバスが来る時間になったため、来た道を引き返す。
珍宝館の横を通った時、声がした。
「お姉さ~ん!」
私を呼びかけていたのは、ちん子さんだった。
そして、思いもよらないことを提案された。
「今から八木原駅に用があるの。送っていくけど、どう?」
まさかまさかの、憧れの人からのご親切である。
私は遠慮がちに、助手席に乗せてもらった。
(ネットで見て、会いたいと思っていた人が、私の隣りに……!)
半分夢を見ているかのような気分で、窓から歩いてきた道を見つめる。
何か話したいと思ったため、聞いてみた。
「何年くらい、館長をされてるんですか?」
ちん子さんは答える。
「珍宝館ができて41年だから、41年」
「長いですね!」と驚く私に、より詳細な情報を語ってくれた。
「初めの数年は、特に説明とかしなくて。
その時は、老人の団体旅行が多くて、おじいさんおばあさんが、展示物の質問をしてくるのね。
それで答えてたら、バスガイドさんが『面白いから、また連れて来る』って言ってくれて。
それがいつの間にか、説明になってたの」
私は心底興味深いと思いつつ、「徐々に今の形式になったのですね」と答えた。
あっという間に八木原駅に着いた。
何度も何度も、頭を下げてお礼を告げた。
何年たっても、忘れられない1日となった。
2018年9月探訪
『珍宝館』公式サイト:
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