小規模な駅舎と、レトロな町並みが特徴の、川崎大師駅。
4月最初の日曜日、この町に黒山の人だかりができた。
国籍・人種が様々に入り交じっている。
彼らの目的はただひとつ、世にも奇妙な祭典・かなまら祭りだ。
かなまら祭りは、金山神社が毎年4月に行う祭典だ。
奉られている「かなまら様」は、「性と鍛冶屋の神」だ。
子孫繁栄・安産・エイズ除けの御利益があるとされる。
特徴は、大きな男性器形の神輿だ。
新型コロナウイルスの影響により、2020年〜2022年は、神輿を担ぐ行事・面掛行列が中止された。
2023年、4年ぶりに行われることとなった。
前回(2019年4月)はまだ平成だった。
実質的に令和初の、通常規模のかなまら祭りといえる。
朝の10時頃、川崎大師駅に降り立った。
金山神社の敷地をぐるりと囲むように、行列ができている。
神輿と同じ形のキャンディを買う列だ。
神社に入ると、境内にも多くの人々がいるのが分かった。
老若男女・国籍を問わず、見渡す限り、皆笑顔だ。
半分以上が、神輿と同じ形のキャンディを口にしている。
屋台が多く設置され、神輿をモチーフにしたTシャツなども売られている。
頭に神輿の形のバルーンを乗せた外国人女性に、少女趣味なドレスを着た日本人男性。
ふんどしをひらひらさせた外国人男性に、シースルーの巫女装束で大きな乳房(造り物)をさらけ出した日本人女性。
時折、二度見せざるを得ない人々もいる。
境内には、既に神輿が2基置かれていた。
その1基の名前は、「エリザベス神輿」だ。
御神体は、ピンク色で大きく、天空に向かってそびえ立つ。
もう1基は「かなまら大神輿」だ。
やぐらが組まれ、木製の御神体が佇む。
境内を行き来していた人々は、神輿の前に集まってきた。
特にエリザベス神輿は、遠くからでも目立つ。
動けないほどの混雑になってきた頃、スピーカーから雅楽が聞こえてきた。
笙の笛の音に、「お〜お~」と野太い唄声が重なる。
神主らしき男性と、巫女らしき女性が、神輿の周りを歩き、時折手を叩く。
神輿のお祓いだ。
厳かな空気を突き破るように、元気な女性のアナウンスが流れた。
「みなさぁ~ん、かなまら祭り、盛り上がってますかぁ~!?」
静かだった人々がざわつく。
彼女は、ハイテンションで漫才師を紹介した。
川崎市出身で、今年吉本興業の養成所に入ったばかりのコンビだ。
彼らは、かなまら祭りを交えた漫才を披露する。
「初デートで行くところといえば、かなまら祭りだよね」
「夏祭りだろ!刺激が強すぎるよ」
日本語が分からない人が多いからか、大きな笑い声は起こらない。
個人的には面白いと感じた。
漫才が終わると、祭り主催者の挨拶が始まった。
「かなまら様は、鉄の神様であり、性の神様です」
「男も女もLGBTも、生まれてきたことに感謝するお祭りです」
まじめな口調での日本語の後、いきなりテンションの高い英語の挨拶に変わる。
「グッドモーニング、エブリワン!ウェルカム・トゥー・カナマラフェスティバル!ナイス・トゥー・ミーチュー!」
人々が「オオ~!」と盛り上がる。
「ナウ・レッツ・スタート・フェスティバル!」
人々の歓声が最高に大きくなり、行列が動き出した。
「シャシャシャン!シャシャシャン!シャン!シャン!シャン!」
一本締めの後、ピンクのエリザベス神輿が持ち上がった。
「オオオ~!」
途端に、歓呼の声が沸き上がる。
神輿は鳥居を潜って、車道を渡り、細い住宅街を進む。
もう一つ一本締めが聞こえたかと思うと、今度は木製のかなまら大神輿が宙に浮いた。
左右に揺れながら、鳥居を潜り、エリザベス神輿の後に続く。
歩くのがやっとの大混雑を潜り抜け、神輿の行列を追いかける。
沿道の家の窓からは、人々が物珍しそうに見下ろす。
かなまら大神輿に追いついた。
「えいさあ!ほいさあ!えいさあ!ほいさあ!」
力強いかけ声で、ハッピをきた人々が担ぐ。
さらに歩いて、エリザベス神輿にも追いついた。
「か〜な〜まらっ!でっかいま〜ら〜!か〜な〜まらっ!でっかいま~ら~!」
担ぐ人々は、ハッピを着た女装子たちだ。
ハッピの下は、セーラー服やメイド服、アニメキャラのコスチューム(『艦これ』の「島風」)だ。
一行は、川崎大師の角を曲がり、表参道を進む。
表参道に入る時に、エリザベス神輿が、一際大きく上下に揺れる。
「ウオオオオオ~!」
耳が痛くなるほどに、歓喜の声がこだました。
沿道に立つ人々だけでなく、飲食店の従業員も、大師のお坊さんも、面掛行列を見ている。
閑散とした普段の姿からは、考えられない光景だ。
歩いているうちに、面掛行列の先頭に追いつく。
行列を構成しているのは、神輿2基だけではないと分かった。
先頭は、金色の着物を着て大きな金色の扇を広げた男性。
その後ろが、頭に飾りを付けた巫女。
続いて、赤い鬼のような仮面を付け金色の装束をまとった男性(猿田彦)と、オレンジピンクの装束をまとった女装子。
その後ろに、黒い御神体と榊を並べた、小規模の神輿(?)が続く。
エリザベス神輿のひとつ前には、エリザベス神輿のイラストと、ひらひらする飾りが一体になったものを力強く振りかざす人がいる。
面掛行列は、大師公園に流れ着く。
エリザベス神輿もかなまら大神輿も、地面に降ろされる。
最後まで、元気なかけ声が続いた。
それぞれ一本締めが行われ、面掛行列は終わりを迎える。
終わっても、エリザベス神輿の前で撮影する人々の群は絶えない。
神輿の横にDJブースがあるため、ノリノリで踊る人も多い。
家族向けのありふれた公園とは思えない、斬新な光景だ。
かなまら祭りは、他にはない神輿を楽しめて、国籍を越えて笑いと元気が溢れる祭りだ。
新型コロナの影響下、「あの神輿、見られないのか……」「もうできないのか?」と嘆いたり不安になったものだった。
4年ぶりに復活して、この祭りがもたらす笑いと元気を、全身全霊で味わうことができた。
2023年4月