徳川家康のお膝元として有名な、愛知県岡崎市。
そんな岡崎市のラブホ『伍萬石』で、6月中旬に見学会が行われた。
ラブホの全部屋を、一度に見て回れるイベントだ。
4月末に参加の抽選が行われ、ダメ元で申し込んだところ、結果は当選。
前日に東岡崎駅付近の宿に前入りし、当日朝に現地へ向かった。
イベントの主催者は、ラブホ研究の第一人者である逢根あまみ氏だ。
『わくわくラブホ文化ガイド』というイベントを、何度か行っている。
今回のラブホは、昨年10月から休業中であり、閉業・解体の予定がある。
私のように訪れたことがない人にとっては、最初で最後の探訪となる。
現地に集合し、流れや注意事項を聞く。その上でまず案内されたのは、バックヤードだ。
中央制御室は、コックピットのようだ。特に、各客室の在室状況が分かるランプが付いた板は、とても存在感がある。
キッチンは、一般家庭と同じコンロや流しがある。厨房のような雰囲気を想像していたので、意外な簡素さだった。
全客室とつながる廊下には、壁に沿って棚がいくつもあり、業務用の洗剤や掃除道具が置かれている。
掃除に関して細かな注意書きも多く貼られ、衛生に気を使っていたことがよく分かる。
回転ベッドのある特室のバックヤード棚には、「円形掛布」「円形シーツ」とラベルがある。部屋が特別なら、備品も特別というのが分かる。
バックヤードを一周してから、自由時間になった。
特室2室(人気が集中しそうな部屋)を除いた17室を、一組一部屋約10分ずつ見学できる。
見学中はネームプレートをドアノブに掛け、見学が終わったら首に掛ける。ドアノブにネームプレートがない部屋を、一生懸命探した。
見学時間は、約2時間半だ。
その間、以下の手順で見て回った。
1 見学者のいない部屋を探し、ネームプレートをドアノブに掛ける。
2 ドアの先にある階段を駆け上がり、客室に通じるドアを開く。
3 靴を脱いでスリッパに足を通し、部屋を見渡して、カメラに収める。
4 部屋を歩き回って、気になるものがあれば撮影する。
5 ベッドに横たわり、部屋を見渡して、カメラに収める。
6 ベッドから起き上がり、しわの寄った寝具を軽く整える。
7 客室のドアまで戻り、スリッパを脱いで靴を履く。
8 階段を駆け下りて、ドアノブのネームプレートを首に掛け、別の部屋を探す。
短時間に寝ころんだり立ったりを繰り返したので、腰の筋肉を使った。
また、全部屋に階段が付いているため、アップダウンが激しく、脚が筋肉痛になった。
ラブホ見学会は、健康にいいスポーツかもしれない。
特室2室は、見学の時間に指定があった。
全19室の中でも、最も人気が高いと予想される部屋だからだ。
11時台に、23号室『嵯峨』へやってきた。
私の指定時間を把握したスタッフが、9分に設定したタイマーを渡す。
タイマーを持つと、私は階段を駆け上がった。
人気の理由は、ドアを開けて1秒で分かった。
そこには、令和とは思えないような、江戸の遊郭を思わせる空間が広がっていたからだ。
ピンクの光に包まれたお座敷、
寝室へ続く風情ある飛び石。
そして奥に佇むのは、和の情緒溢れる回転ベッドだ。
回転ベッドを1週半したところで、タイマーは時間切れを告げた。
語り尽くせないほどの魅力に溢れた部屋だ。
その後13時台に、22号室『スターウォーズ』へやってきた。
再びタイマーを渡されて、階段を登る。
ここもまた、人が殺到してもやむを得ないと納得した。
なぜなら、天井が高く鏡だらけの壁の中、
点滅するカラフルな台座を置き、
小型の飛行船のようなベッドが台座に乗った、スペーシーな空間が待っていたからだ。
メゾネットになっていて、寝室は鏡貼りの螺旋階段を登った先にある。
ベッドは高い台座の上にあり、ベッド自身も高さがあるため、乗るというよりよじ登る感覚だ。
あらゆる角度からベッドを撮影した。
この部屋もまた、360度どこを見ても魅惑的だ。
これほどに濃い10分弱は、人生でほとんど経験したことがない。
ラブホの全室、それも普通ではない内装ばかりの客室を見学できたので、感無量だった。
また、実際に素晴らしい客室に身を置くと、一晩を過ごした人々を羨ましく感じた。
そして、これらの客室が近々解体されると思うと、歯がゆさや切なさを感じるとともに、どんなものも永久にあるのではないという無常感を覚えた。
貴重な機会を下さった逢根あまみ氏に、感謝したい。
2022年6月参加・探訪
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